「足音のリズムが変わる夜 〜浮気の勘と崩れる日常〜」

○自宅・リビング（夜）

（BGM：静かにピアノが流れ始める）

N：女の勘。
それは時に、人間の常識を超える。

（カメラ、ゆっくりソファでスマホをいじる男・和也にズームイン）

和也（35・会社員、少し神経質） ：（爪を丁寧に磨きながら、ふとため息）

和也：（心の声）（どこからバレるかわかんねぇ…気を抜いたら終わりだ）

（SE：玄関のドアが静かに開く）

（少し間）

（足音が近づく）

陽子（32・和也の妻、聡明で冷静） ：（リビングのドア前で立ち止まり、和也をじっと見つめる）

陽子：（静かに）
おかえり。
…今日、足音のリズム、違ったね。

（和也、一瞬手を止める）

和也：（動揺を隠しつつ）
え？そんなこと、ある？

陽子：（淡々と）（近寄りながら）
いつもは、玄関から三歩目で右足を少し引きずるのに、今日は違った。

（間）

和也：（笑ってごまかそうとしながら）
気のせいだろ。
そんな細かいとこ、誰も気づかないって。

N：過去、こんな話を聞いたことがある。

N：玄関からリビングまでの足音のリズムが違うだけで、夫の浮気を見抜いた女性がいる、と。

○和也の回想・職場（昼）

（SE：携帯のバイブ音）

和也：（スマホを見つめ、すぐには出ない）

同僚（28・お調子者）：
和也さん、奥さんから？出ないんすか？

和也：（苦笑して）
いや…“普段から”即出ないようにしてんだよ。
怪しいと思われないようにさ。

同僚：
逆に怪しまれません？

（和也、曖昧に笑う）

○自宅・リビング（夜・回想から戻る）

（和也、香水を手に取り、そっと手首に吹きかける）

（陽子、それを無言で見つめる）

陽子：（少し声を震わせて）
コンビニ行くだけで香水つける人、珍しいね。

和也：（ごまかしながら）
いや、最近気分変えたくてさ。

陽子：（目を伏せて）
…爪も、ずいぶん綺麗にしてるね。

和也：（苦笑いしながら）
ちょっとな。
色々、気を使ってるだけ。

（間）

N：和也は気を抜かない。
怪しまれないように、普段から怪しい行動を心がけている。

（SE：スマホの着信音）

和也：（意味もなくスマホを隠す）

陽子：（じっと見つめる）

和也：（心の声）
毎日が綱渡りだ。
でも、これも俺なりの防衛策なんだ…。

（カメラ、和也の表情にゆっくりズームイン）

N：どうだ、俺の徹底ぶり。
…だけど、その代償は大きい。

（BGM：切ない曲調に変わる）

陽子：（小さく）
…和也、私たち、もう一度ちゃんと話そう。

（和也、目を伏せて）

N：おかげで、まもなく離婚されそうだけどね。

（画面暗転）