「ドラクエ」に没頭する夜―現実逃避と自己調整の心理メカニズム

まず観察できる行動は、「ほとんど眠らずにドラクエに夢中になって、朝を迎えた」という点である。
この行為は現実からの一時的な逃避、つまり「解離」や「逃避」の防衛機制として理解できる。
ドラクエというゲーム世界に没頭することで、主人公は現実の課題や不安から距離を取ろうとしている。
これは過去のストレス体験や、現在の自己効力感の低下（「自分には現実の問題をうまく解決できないのでは」という感覚）が背景にある可能性がある。

次に、「財布に紙幣がなくて小銭ばかりだった」ことに気づいた場面では、現実的な金銭的問題が浮上しているにもかかわらず、「大学に着くまでにモンスターを倒せば、昼食代くらいなんとかなるだろ」と考えている。
この思考は、「合理化」という防衛機制や、「認知的不協和」の解消を図る認知的方略の現れである。
本来なら金銭的な不安や失敗を直視し、対応策を考えるべき場面だが、ゲーム的な発想へと置き換えることで、現実の不快な感情（不安や自己否定）を軽減しようとしている。

200mほど歩いたところで「ふと我に返った」という記述は、ゲームと現実の境界が一時的に曖昧になっていた状態から、突如として現実認識が回復したことを示唆する。
この現象は軽度の「解離」や「現実逃避」からの復帰とも解釈でき、無意識的に回避していた現実の課題（大学への登校、金銭的問題）と再び向き合う瞬間である。

その結果、「その日は大学を休むことにした」という行動選択がなされる。
これは「回避行動」や「学習性無力感」の影響も考えられる。
過去の経験や自己効力感の低下が、現実課題への挑戦を断念させている可能性がある。
また、愛着理論の観点からは、十分な自己調整力やサポート資源の不足によって、一時的な「退行」的行動（責任からの逃避）に至ったとも考えられる。

総合的に見て、本事例は「現実的な不安」や「自己効力感の低下」が背景にあり、ゲームへの没頭や合理化、現実逃避といった一連の防衛機制が連動している。
これらの行動は一方で過剰なストレスへの適応的反応とも言えるが、長期的には現実問題への向き合い方や自己効力感の回復が課題となる。
もし、このような状況が続く場合は、自己調整力の強化や、現実的な問題解決スキルの獲得、社会的サポートの活用などが有効な介入となり得る。