『くねくね』――それを間近で見てしまった瞬間、すべては終わった。
帰省の最終日、泣き叫ぶ僕を残して兄は田舎の家に置いていかれた。
車の窓越しに見た兄は、一瞬だけ手を振ったように見えたが、双眼鏡をのぞくと、兄は泣いていた。
「いつか…元に戻るよね…」と願いながら、僕はただ田んぼを見晴らしていた。
だが、その少し前――
家に戻ると、兄は狂ったように笑いながら、あの白い物体のようにくねくねと体をよじらせていた。
祖父は「あの白い物体を見てはならん!」と泣き崩れ、祖母は「兄はここに置いておいた方がいい」と呟いた。
結局、僕は双眼鏡を拾うこともできず、ただ遠くから白い物体を見ているしかなかった。
どうしてこんなことになったのか。
昼下がりの田んぼ、風がぴたりと止まり、生温い風が流れた。
兄と僕は案山子の向こうに不気味な白いモノがくねくね動いているのを見つけた。
「新種の案山子じゃない?」と言った僕の隣で、兄は顔色を失っていた。
兄は家に駆け戻り、双眼鏡を持ってきて「俺が最初に見る!」と覗いた。
その直後、彼の顔は真っ青になり、冷や汗を流して双眼鏡を落とした。
「何だったの?」と聞くと、「わカらナいホうガいイ……」――それは兄の声ではなかった。
話はさらに遡る。
幼い頃、年に一度だけ秋田の祖母の家に帰省するのが楽しみだった。
兄と無邪気に田んぼを駆け回り、都会とは違う新鮮な空気を満喫していた。
あの日も同じように、特別なことなど何もない、はずだった。
あの時、兄が双眼鏡を覗かなければ――。
祖父が必死で制止したのも、祖母が兄を家に残すと決めたのも、すべては「あの白い物体」の正体を知っていたからなのだろう。
けれど僕は、いまだに信じたくない。
あの田んぼの奥にいたのは、ただの案山子ではなかった。
そして、見てはいけないものだった。
『くねくね』――それを見た者が、どうなるのかを。
怖い話:「くねくね」を見てしまった日――兄の変貌と、あの日の真実
「くねくね」を見てしまった日――兄の変貌と、あの日の真実
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