秋田の祖母の家で出会った、忘れられない夏の記憶

幼い頃、私は秋田に住む祖母の家に帰省したことがありました。
年に一度のお盆だけに訪れる祖母の家で、私は兄と一緒に、うれしさのあまり外へ飛び出したのです。
都会とは違う新鮮な空気の中、私たちは田んぼの周りを元気いっぱいに駆け回りました。


お昼頃になると、それまで吹いていた風がぴたりと止まり、代わりに生ぬるい風（ひんやりともしない、少し暖かい風）がふわりと吹いてきました。

―「何でこんな暖かい風が…」と私が少し不満げに言うと、
兄は案山子（かかし）の方をじっと見つめていました。


―「あの案山子がどうしたの？」と私が尋ねると、
―「いや、その向こうだ」と兄は答えたのです。


私も田んぼのずっと奥を見つめてみました。
すると、人くらいの大きさの白い物体が、くねくねと不思議な動きをしているのが見えました。
人影のようには見えません。


―「あれ、新種の案山子じゃない？風で動いてるんだよ！」と私は自分なりに考えたのですが、兄はいつもと違う無表情になってしまいました。

風がもう止んでいるのに、白い物体だけは動き続けていたのです。


兄は驚いた様子で家に戻り、双眼鏡を持ってきました。

―「俺が最初に見るから、ちょっと待てよ！」と兄は少し興奮気味に双眼鏡を覗きましたが、次の瞬間、顔が真っ青になり、冷や汗をかき始め、手にしていた双眼鏡を落としてしまいました。


―「何だったの？」と私は恐る恐る聞きました。

―「わカらナいホうガいイ……」兄の声が、普段とはまるで違っていたのです。


結局、私は双眼鏡を拾う勇気が出ず、ただ遠くから白い物体をじっと見つめていました。
不思議な光景でしたが、その時はなぜか強い恐怖は感じませんでした。


すると、祖父が突然駆け寄ってきて、
―「あの白い物体を見てはならん！」と強い口調で言われました。

私がまだ間近で見ていないことに気付いた祖父は、ほっとした様子で、その場に泣き崩れてしまいました。


家に戻ると、兄がまるで狂ったように笑いながら、あの白い物体と同じようにくねくねと体を動かしていました。


帰る日、祖母が
―「兄はここに置いておいた方がいい」と言いました。

私は悲しくて泣き叫びました。


車で祖母の家を離れる時、兄が一瞬だけ手を振ったように見えました。
私は双眼鏡で兄を覗いてみると、兄は泣いていました。


―「いつか…元に戻るよね…」

そう思いながら、私は田んぼの景色をじっと見つめていました。


その時でした。
私は、見てはいけないものを、間近で見てしまったのです。


『くねくね』