■【起】〜懐かしき田舎、始まりの違和感〜
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幼い頃、年に一度の帰省で秋田の祖母の家を兄と訪れた。
普段は都会で暮らす僕たちにとって、祖母の家は非日常の宝庫だった。
田んぼの広がる風景、澄んだ空気、全てが新鮮で、僕たちは夢中で外へ飛び出した。
田んぼの周りを駆け回り、風に揺れる稲と青空を満喫する。
けれど、昼頃、ふと空気が変わる。
風がぴたりと止み、代わりに生温い風が吹き込んできた。
「何でこんな暖かい風が…」僕が不満をこぼすと、兄は案山子の方をじっと見つめていた。
■【承】〜田園に現れた異様な存在〜
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「案山子がどうしたの?」と問いかけると、兄は「いや、その向こうだ」と静かに答える。
僕も目を凝らすと、田んぼの奥に人のような白い物体が、くねくねと不気味に動いているのが見えた。
人影ではない。
何かおかしい——。
「あれ、新種の案山子じゃない?風で動いてるんだよ!」と無邪気に言い訳を探す僕に対し、兄の顔からは表情が消えていた。
風は止んだはずなのに、白い物体はなおも動き続けている。
兄は急いで家に戻り、双眼鏡を持ってきた。
「俺が最初に見るから、ちょっと待てよ!」と張り切って覗き込む兄。
しかし、その顔は見る見るうちに青ざめ、冷や汗を滲ませ、双眼鏡を手から落としてしまう。
■【転】〜禁忌を越えた瞬間、壊れていく日常〜
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「何だったの?」と僕が恐る恐る尋ねると、兄はまるで別人のような声で「わカらナいホうガいイ……」と呟いた。
その異様な様子に、僕はただ遠くから白い物体を見つめることしかできなかった。
恐怖というより、現実感が失われていくような奇妙な感覚だけが残った。
そこへ祖父が慌てて駆け寄ってきて、「あの白い物体を見てはならん!」と叫ぶ。
僕がまだ双眼鏡を覗いていないと知ると、祖父はその場で泣き崩れた。
家に戻ると、兄は正気を失ったかのように笑いながら、あの白い物体のように体をくねくねと動かしていた。
■【結】〜終わらぬ余韻と、田園に残る影〜
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帰る日、祖母は「兄はここに置いておいた方がいい」と静かに告げた。
僕は泣きながら車に乗り込むしかなかった。
車が田んぼを離れる時、兄が一瞬手を振ったように見えた。
双眼鏡を恐る恐る覗くと、兄は泣いていた。
「いつか…元に戻るよね…」そう信じたかった。
車窓から田んぼを見晴らしていると、不意に、あの「くねくね」を間近で見てしまった気がした——。
見てはいけないものを、僕もまた、見てしまったのだ。
『くねくね』
怖い話:田園に潜む白い影——「くねくね」がもたらした終わりなき恐怖
田園に潜む白い影——「くねくね」がもたらした終わりなき恐怖
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