切ない話:静かな病室で、すれ違う二つの家族──涙と祈りの夜

静かな病室で、すれ違う二つの家族──涙と祈りの夜

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○産婦人科・病室(夕方)

(SE:カーテン越しの小さな話し声。
外は雨)

N:かなり昔のことだ。

N:結婚して2年目の春、僕たちはひとりの命を失った。

(カメラ、静かに病室の全景を映す。
二つのベッド。
手前に主人公夫妻、奥にもうひと組の夫婦)

●登場人物
・佐藤 誠(30代前半・やや無口な男性)
・佐藤 由美(30代前半・優しい雰囲気の女性)
・田中 浩一(40代・明るい性格の男性)
・田中 美咲(30代後半・新米ママ)
・看護師

(由美、ベッドに横たわり、顔色は青白い。
誠が椅子に座り、静かに手を握る)

誠:(目を伏せて)(心の声)
……この世に生まれることのなかった、僕たちの子ども。

(由美の手をそっと握りしめる)

(カメラ、奥の田中夫婦にパン)

浩一:(ベッドに近づき、美咲に話しかける)
「なあ、うちの子も可愛いけどさ、隣の赤ちゃん、すっごく可愛かったな~!」

美咲:(微笑みながら)
「もう、なに言ってるのよ。
自分の子が一番でしょ?」

(誠と由美、微かに反応。
由美、目を閉じて堪える)

誠:(声を抑えて)(心の声)
……頼む、今はそっとしておいてくれ。

(浩一、しつこく繰り返す)

浩一:
「いや、本当に隣の赤ちゃん、天使みたいだったよな~。
なあ?」

(間)(誠、眉をひそめる。
由美、顔をそむけて涙をこらえる)

誠:(心の声)
……うるさい。
黙ってくれ……。

(BGM:静かに切ない曲調に変わる)

(しばらく沈黙)

○病室・夜

(看護師がカーテンをそっと開ける)

看護師:
「佐藤さん、ご退院の許可が出ました。
ご準備できたら、お声かけくださいね」

誠:(ゆっくり立ち上がり、由美の手を取る)(優しく)
「……じゃあ、帰ろうか」

(由美、ゆっくりうなずく)

(その時、田中浩一が声をかける)

浩一:(驚いて)
「え?もう帰るんですか?産後なのに入院しなくていいんですか?」

(誠、しばし沈黙。
目を閉じて深呼吸)

誠:(静かに、微笑を作りながら、でも目は悲しい)
「……うちは、途中でダメだったんです。
……奥さんとお子さんを、どうか大事にしてください」

(間。
浩一、言葉を失い、気まずそうにうつむく。
美咲も目を伏せる)

(誠、由美の肩に手を添え、外へ向かう)

(SE:静かな足音、ドアが閉まる音)

N:あの時、隣の夫婦の喜びの声が、僕たちには修羅場に響いていた。

N:でも、今思えば──
N:僕たちが病室を去った後の、あの夫婦の沈黙こそが、本当の修羅場だったのかもしれない。

(BGM:やわらかく転調)

○自宅・リビング(数年後・昼)

(誠と由美、幼い二人の子どもと笑い合う)

N:それから、僕たちはふたりの新しい命に恵まれた。

N:どちらも、元気に育ってくれている。

(カメラ、家族を包む柔らかな光。
由美、やさしく微笑む)

(画面フェードアウト)
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