かなり昔のことになります。
結婚して2年目に授かった赤ん坊を、稽留流産(けいりゅうりゅうざん)で失いました。
稽留流産というのは、赤ちゃんが母胎に残ったまま亡くなってしまう状態のことで、この場合「人工中絶手術」(医学的な処置の名前です)を受けるしかありませんでした。
この手術名には複雑な気持ちもありましたが、医学上そう呼ばれるのなら仕方がないのだと自分に言い聞かせて、手続きを進めました。
手術の後は、しばらく安静にしないと退院できなかったので、私は病室で横になる妻に付き添っていました。
そこは小さな産婦人科で、出産を終えたばかりのお母さんと同じ部屋になっていました。
隣のベッドのお父さんが、「うちの子よりも、横に居た赤ちゃんの方が可愛かった」と何度も話していました。
きっと、私たちの子供を褒めてくださったつもりなのでしょう。
しかし、私たちは深い悲しみの中にいて、おそらくこの世の終わりのような顔をしていたのだと思います。
隣のご夫婦の会話が続くたびに、心の中で「うるさい!どうか、今は静かにしてほしい」と感じていました。
やがて看護士さんから、帰宅の許可が出ました。
私は妻に「じゃ、帰ろうか」と声をかけました。
その時、隣のご主人が「え?帰るんですか?産後なのに入院しないんですか?」と聞いてきました。
私は冷静に、「うちは途中でダメだったんです。
奥さんとお子さんを大事にして下さいね」と伝え、病院を後にしました。
隣のご夫婦が喜びいっぱいに語り合っていた時間は、私たちにとっては苦しい修羅場でもありました。
しかし、今思えば、私たちが帰った後で事情を知った彼らの方が、さらに困惑し、つらい気持ちになったかもしれません。
その後、私たちは二人の子供に恵まれ、どちらも元気に育ってくれています。
本当にありがたいことだと感じています。
切ない話:小さな産婦人科で過ごした忘れられない時間
小さな産婦人科で過ごした忘れられない時間
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