嫁姑関係の力動と認知バイアス：家族内役割葛藤の深層心理分析

本事例は、義母（トメ）、長男嫁（義兄嫁）、次男嫁（語り手）、及び夫たちの間で生じる家族内の力動を、多角的な心理学的観点から考察することができる。

まず表層的な行動として、義母は次男嫁である語り手に対して厳しい態度を取り、家事指導や粗探しを頻繁に行う一方で、長男嫁には甘い対応を見せている。
このような選択的な態度は、家族内ヒエラルキーや役割期待に深く関わっている。
義母の行動は「投影」や「スケープゴート化」という防衛機制で説明できる。
すなわち、自身の不安や不満、あるいは家族内で満たされなかった期待を、次男嫁という“他者”に投影し、批判や指導という形で外在化している可能性がある。

また、義母が「自分は間違っていない」と主張し続ける姿勢には、「否認」や「合理化」の防衛機制が見られる。
自らの行動が問題であることを受け入れることは、自己像の揺らぎを引き起こすため、無意識的にそれを回避していると考えられる。
これは「認知的不協和」の解消とも関連し、自分の行動と“良き母・義母”という自己イメージの矛盾を、行動の正当化によって埋め合わせている。

次男嫁（語り手）と夫が物理的に距離を置くことで対処したのは、「境界線の設定」であり、心理的自律性の回復を目指す適応的行動といえる。
しかし、義兄嫁は義母の問題行動を体験していなかったため、「確証バイアス」によって義母の良い側面だけを見ており、語り手の訴えを「性格の問題」として帰属させる傾向があった。
ここには、家族システム内での「役割期待」と「スキーマ（思考枠組み）」の違いが作用している。

その後、義兄嫁が妊娠したことで、義母の行動パターンが義兄嫁にも向かう。
この時点で、義母の行動が単なる個人攻撃ではなく、家族役割への強迫的な介入であることが明らかになる。
義母が赤ちゃんの性別や名前、進路にまで干渉するのは、「コントロール欲求」や「自己効力感の補償行動」と解釈できる。
加えて、世代間で繰り返される「再演」―すなわち自分がかつて体験した母子関係や社会的役割を、次の世代に無意識的に再現している可能性も否定できない。

義兄嫁が義母の強い介入に苦しむ一方、義兄はその悩みを十分に理解していない様子であった。
これは「感情の共有不足」や「共感性の発達段階」に関連し、また男性社会における“マタニティブルー”への理解不足という文化的側面も影響している。

最後に、語り手が義兄嫁との距離も置く決断をしたのは、「学習性無力感」や「自己保存のための回避」と解釈できる。
繰り返し理解されない・共感されない経験が、「人は変わらない」という認知を強化し、防衛的な距離の取り方につながっている。

総じて本件は、家族内役割葛藤、投影と否認による防衛機制、認知バイアス、そして個人の心理的自律性の模索が複雑に絡み合う事例である。
適切な介入があれば、各人の無意識的な動機や認知の歪みに気づき、より健康的な関係性への変容も可能と考えられる。