「まだ戻りたくない」―花火の夜、私が彼の腕の中にいた理由

「まだ戻りたくない。
」
その言葉が思わず口から漏れ、私は無意識にOくんの服の袖を掴んでいた。
次の瞬間、気がつけば、私は彼の腕の中にいた――夏の夜、線香花火の残り香が漂う合宿の終わりに。

どうしてこんなことになったのか。

ほんの数分前まで、私は花火を手にOくんと並んでいた。
彼は静かにこう言ったのだ。
「ずっと美香とこうしていたかった。
合宿が終わっても、サークルの外でも、一緒にいたい。
」突然の告白に心臓が跳ねる。
驚きと戸惑いの中、線香花火が落ちる。
Oくんは「じゃあ、みんなのところに戻ろうか」と促したが、私はその手を離したくなかった。

でも、ここまでの気持ちの変化には理由がある。

バスケサークルに入ってからの日々は、毎日が新鮮で楽しく、イベントや試合に夢中だった。
恋愛については、正直あまり深く考えていなかった。
友達と過ごすこと、スポーツに打ち込むことが日常のすべてだったのだ。

その夏、サークルの合宿という特別な時間が始まりだった。

大勢で過ごす中、Oくんと話す機会が増え、気がつけば彼の優しさや真剣な眼差しに惹かれていった。
だけど、その気持ちを自分でも認めないまま、季節は流れていった。

思い返せば、あの「まだ戻りたくない」という一言には、単なる延長の願い以上の意味があった。

私は彼と一緒にいる未来を、無意識のうちに願っていたのだ。
あの夜、私の心に火がついた。
線香花火の小さな炎のように、でも、決して消えない想いが。