壊れた家族の輪郭 ― 義兄嫁が駆け込んだ夜

○自宅・リビング（夜）

（SE：壁掛け時計の秒針が静かに響く。
窓の外は雨）

N：家族の形は、思っていたよりも脆かった。
義兄の再婚が、私たちの暮らしにもひずみを生んでいた。

○回想・自宅・リビング（数年前・昼）

（BGM：明るいがどこか不穏な曲）

（義兄嫁（35・派手な雰囲気）が、自分の息子（小学生・やんちゃそう）を連れてやって来る）

義兄嫁：（にこやかに、だが押しつけがましく）
「ねえ、うちの子と遊ばせてあげて。
きっとすぐ仲良くなるよ！」

私（30・穏やかながら困惑気味）：
「あの…子ども同士にもペースがあるから…」

（義兄嫁、私の子の肩をつかみ、無理に自分の息子の隣に並べる）

（私、目を伏せてため息）

N：初めての出会いから、どこか無理があった。

○自宅・キッチン（夜）

（SE：冷蔵庫のモーター音）

夫（32・温厚、だがやや頼りない）：（スマホを握りしめて）
「…兄貴に言ったよ、ちょっとやりすぎじゃないかって」

私：（苦笑しながら）
「そうしたら、今度は私のせいだって言われて…」

（間）

N：義兄夫婦の間にヒビが入ったのは、その頃だった。

○義兄宅・リビング（夜）

（SE：夫婦喧嘩の怒鳴り声、物が倒れる音）

義兄嫁：（泣きながら、声を荒らげて）
「あなたが悪いのよ！なんで私ばっかり…」

義兄（37・真面目だが不器用）：
「もう無理なんだよ…」

N：連れ子と義兄との養子縁組の話も、立ち消えた。

○自宅・玄関（夜）

（雨の音が強い。
玄関チャイムが鳴る）

（私、戸惑いながらドアを開ける）

（義兄嫁、髪は乱れ、子どもを抱えて立っている。
顔や腕にはアザ）

義兄嫁：（泣き声混じりに）
「お願い…今夜だけでいいから、泊めて…家の中、もうぐちゃぐちゃなの…」

私：（戸惑い、目を伏せて）
「ごめんなさい…ちょっと、今は…」

義兄嫁：（ドアを押し返すようにして入ろうとする）

私：（困惑して後ずさる）

N：断っても、彼女は引き下がらなかった。

○自宅・リビング（続き）

（SE：ドアの閉まる音）

（私、義兄に電話をかける）

私：（声を潜めて）
「…今、義兄嫁さんが来てる。
どうしたらいい？」

○自宅・玄関（数分後）

（義兄が駆けつける。
義兄嫁、ボロボロの姿で玄関に立つ）

義兄：（息を切らして）
「…どうして、こんなことに…」

義兄嫁：（突然、義兄を指さし）
「うらぎりものー！」

（義兄嫁、叫びながら逃げていく。
子どもが後を追う）

（間）

N：その後のことは、私も詳しくは知らない。

○回想・義兄宅（夜）

（義兄が手を押さえ、血が滲んでいる。
警察官が到着）

SE：パトカーのサイレン

N：夫婦喧嘩の最中、義兄がカッターで刺された。
それが、決定的な終わりの合図だった。

○自宅・リビング（翌日・昼）

（私がコーヒーを飲みながら、窓の外を見つめている）

（義兄嫁の息子が、ふてくされた顔でソファに座っている）

私：（ため息交じりに）
「…あと一時間だけって、言ってたはずなんだけど」

（時間が過ぎても誰も迎えに来ない。
私、スマホで義兄に連絡）

SE：携帯の着信音

私：（電話で）
「…すみません、もう迎えに来てもらえますか？」

（義兄が迎えに来て、子どもを連れて帰る）

N：たった一時間でも、うちの子は泣かされて、家の中はめちゃくちゃになった。

○自宅・リビング（夜）

（私、静かにコーヒーを飲む）

N：それ以来、どんなに頼まれても、私はもう二度と預からなかった。

（BGM：静かに切ない曲調が流れる）

（カメラ、ゆっくり窓の外の雨にズームイン）

（フェードアウト）