立ち飲み屋の奇妙な話

僕には、御祓いを仕事にしている知り合いがいる。
と言っても、最寄り駅近くの立ち飲み屋で出会ったおばさんだ。
今から約7年前、引っ越ししたばかりで友達もおらず、気軽に入れる立ち飲み屋に通っていた時のことだった。

初めて会ったその瞬間、おばさんは僕を見るなり「ギャーッ」と叫んだ。
僕自身、何度か見知らぬ人に叫ばれた経験があったので、『またかよ…』と無視していた。
しかし、彼女は他の人と違って話しかけてきたのだ。

―どこから来たの？仕事は？両親は？―

尋問のように矢継ぎ早に質問された。
まあ、こんなおばさんの友達も悪くないかもと思い、答えていた。
その数日後、彼女は「今度、私の店に来て！」と店のカードを渡してきた。
興味もなかったし、上から目線に感じてムカついたので、カードは捨てた。

しかし、その後また立ち飲み屋で彼女に会い、無理やり店に連れて行かれる羽目になった。
痩せたおじさんと若い女性も一緒で、逃げられなかった。
おばさんはトキコさん、若い女性はケイちゃん、おじさんはヤスオさんという名だった。

―絶対、宗教の勧誘だよなあ…―

そう思いながら、3人の後をついて行った。
店に行くまで誰も喋らないので、ケイちゃんに話しかけてみたら「ヒィー！」と驚かれた。
ヤスオさんが「君が怖いんだ」と言った時は、悲しかった。

店に着くと、ただの占いの館だった。
宗教の勧誘ではなさそうで、「占いでもしてくれんのかな」と期待した。
しかし、トキコさんが「一緒に仕事しない？」と持ちかけてきた。
3人は御祓いを仕事にしていて、僕に協力してほしいらしい。

当時、僕は会社で働いていたので「仕事があるので無理です」と断ると、「土日のバイトだと思って」と頼まれた。
幽霊や神様は信じないので、まぁいいかと了承した。

翌週末、○○区の一軒家に呼ばれた。
自転車で向かうと「徒歩で来い、アホ」と怒られた。
渋々自転車を停めて、その家に入ると、トキコさんとケイちゃんが「ああ、いますね」と言い出した。
しかし、僕には何も見えなかった。

居間には中年夫婦がいて、お茶を出してくれた。
トキコさんが「始めましょう」と言い、2階の『タカオ』と書かれた部屋に案内された。
トキコさんは「何があっても取り乱すな」と注意した。

扉を開けると、中学生くらいの少年がトキコさんに飛びかかってきた。
「ガジャガジャ！」と叫んでいたが、僕が近づくと震え始め、ベッドの隅に逃げた。
トキコさんは「体のどこでもいいから叩け！」と指示したので、背中を叩いた。
タカオ君は泡を吹いて倒れた。

タカオ君は半年ぶりに大人しく寝たらしい。
帰り道、トキコさんに「意味が分からない」と聞いてみた。
ケイちゃんは途中でゲロを吐いた。

―あんたは相当なモノを持ってるね―

初めは何のことかと思ったが、どうやら『守護霊』や『気』のことらしい。
「良いんですか？」と聞くと、「いや、最悪なんだ」と言われた。
普通なら生きているのが不思議なんだとか。

その後、トキコさんのお店で10万円もらえた。
『中学生の背中を叩いて10万円ならいいか』と思った。
その後、留学して3年前に戻ってきた。
トキコさんは「それ、逞しくなってるよ」と言った。

3年間、御祓いのバイトをしているが、見えないものは見えない。
今でもケイちゃんは仕事が終わるとゲロを吐く。
僕のせいなので、申し訳ない。