「その日も、御祓いの仕事を終えたケイちゃんが、トイレで静かにゲロを吐いていた。
僕が中学生の背中を叩いただけで、10万円が支払われた。
そして、僕にはいまだに“何も見えない”ままだ。
」
遡ること数時間前、僕は○○区の一軒家に呼ばれていた。
自転車で向かったが、「徒歩で来い、アホ」とトキコさんに怒鳴られ、しぶしぶ自転車を停めた。
家に入ると、トキコさんとケイちゃんが「ああ、いますね」とつぶやく。
だが、僕の目には何も映っていない。
居間には中年夫婦が待っていて、お茶を出してくれた。
「始めましょう」とトキコさん。
2階の『タカオ』と書かれた部屋に案内され、「何があっても取り乱すな」と念を押される。
扉を開けた瞬間、中学生くらいの少年がトキコさんに飛びかかる。
「ガジャガジャ!」と叫びながら、僕が近づくと震えてベッドの隅に逃げた。
トキコさんは「体のどこでもいいから叩け!」と叫ぶ。
僕は戸惑いながら背中を叩いた。
タカオ君は泡を吹いて倒れ、その夜は半年ぶりに大人しく眠ったらしい。
話はさらに数週間前に遡る。
僕は立ち飲み屋で出会ったトキコさんに、「一緒に仕事しない?」と声をかけられた。
最初は宗教の勧誘かと疑ったが、店に連れて行かれると、そこはただの占いの館だった。
トキコさん、ケイちゃん、ヤスオさんの3人は御祓いを仕事にしていて、僕に協力してほしいと言う。
幽霊や神様を信じていなかったが、「土日のバイト」という言葉につられ、引き受けてしまった。
すべての始まりは7年前。
引っ越したばかりで友達もおらず、最寄り駅近くの立ち飲み屋に通っていた。
そこで初めて会ったトキコさんは、僕を見るなり「ギャーッ」と叫び、質問攻めにしてきた。
数日後、「今度、私の店に来て!」とカードを渡され、無理やり連れて行かれる羽目になった。
ヤスオさんには「君が怖いんだ」とまで言われたその日から、僕の日常は大きく変わった。
実は、僕は“相当なモノ”を持っているらしい。
「守護霊」や「気」――そういった類のものだと言われた。
普通なら生きているのが不思議だとまでトキコさんは言う。
僕には到底理解できない世界だが、留学から戻った今も、週末の御祓いバイトを続けている。
ケイちゃんが仕事のたびに吐くのは、どうやら僕のせいらしい。
だけど、僕には何も見えない。
中学生の背中を叩いて10万円。
いまだに、あれは現実だったのかよく分からないままだ。
不思議な話:「中学生の背中を叩いて10万円――“見えない力”の正体」
「中学生の背中を叩いて10万円――“見えない力”の正体」
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