「雨の公園に立ち尽くす少年」16歳の死を悼む青年　団地で目撃された20年前の一夜と今

■雨中に立ち尽くす少年、団地住民が目撃

20年前の3月、東京都内の団地で、ある青年が雨の夜に傘もささず公園に立ち尽くしている姿が目撃された。
当時、同団地に住んでいた会社員のAさん（40代男性）が本誌の取材に応じ、「帰宅途中、向かいの団地をじっと見つめている少年がいた。
夜8時を過ぎて冷たい雨が降っていたので、非常に気になった」と振り返る。

■翌朝も変わらず、限界間近の様子

Aさんは自宅に戻ってからも、1時間後、翌朝になっても少年が全く動かず公園に佇む様子を窓越しに確認した。
午前中になっても雨の中に立ち続けていたことから、「見ていて限界が近いのではないか」と危惧し、傘を差し出しながら声をかけたという。
しかし、少年は「ありがとうございます」とだけ返し、それ以上の事情は語らなかった。

■6時間以上の“雨中静止”、背景に悲劇

その後もさらに6時間、少年はほとんど動かずに立ち続けた。
Aさんは不審に思い、向かいの団地に住む知人に連絡。
取材で判明したのは、少年が約1か月前に急性白血病で16歳の娘を亡くした家族の関係者であることだった。
知人によれば、「亡くなった娘の交際相手だった。
最期を見守ることしかできず、深い悲しみに沈んでいたようだ」という。

■目撃者「胸が締め付けられる思い」

Aさんは「あの年齢で最愛の人を失った彼の苦しみは想像を絶する。
雨の中、何もできずに立ち尽くしていた姿が忘れられない」と語る。
目撃当時、警察への通報や周囲からの声掛けもなかったが、「今もあの日の光景が記憶に残っている」と取材に応じた。

■専門家「若者のグリーフケア、社会的支援が必要」

若者のグリーフ（喪失体験による深い悲しみ）について、臨床心理士の佐藤由美子氏は「思春期の喪失体験は、心身の成長や人間関係の形成に大きな影響を与えうる。
周囲の大人や社会が、本人の気持ちに寄り添い適切なサポートを提供することが重要」と指摘する。

■今後の課題と読者への問いかけ

取材当時の少年が現在どうしているかは確認できていないが、Aさんは「彼が今、少しでも前向きに生きてくれていれば」と静かに語った。
身近な人の死に直面した若者を、地域や社会はどのように支えていけるのか、いま一度問われている。