■【起】〜雨の夜、静かに現れた少年〜
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20年前、私が団地に住んでいた頃のことです。
ある晩、会社から帰宅する途中、ふと公園に目をやると、雨の中で傘もささずに立ち尽くす少年の姿がありました。
彼は向かいの団地をじっと見つめており、その姿はどこか不気味で、私の胸にざわつきと不安をもたらしました。
時刻は夜の8時。
まだ冷たい3月の雨の中、少年は身じろぎもせず、ひとり静かに佇んでいました。
私はその様子を気にかけながらも、疲れもあって通報することなく、その晩は早めに眠りにつきました。
■【承】〜雨と哀しみ、止まぬ時間〜
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翌朝、ふと気になって窓の外を覗くと、少年はまだ同じ場所にいました。
雨に濡れながら、夜から一歩も動かず、まるで時間が止まったかのようでした。
昼になっても変わらず、彼の体力も限界に近づいている様子が伺えました。
居ても立ってもいられず、私は傘を持って彼のもとへ駆け寄りました。
「大丈夫?どうしたの?」と声をかけても、彼は「ありがとうございます」とだけ答え、理由は何も語ってくれませんでした。
その後も、彼はさらに6時間、雨の中に立ち続けていたのです。
■【転】〜明かされる真実、胸を打つ慟哭〜
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どうしても気になり、私は向かいの団地に住む知人に連絡を取りました。
そこで初めて、少年の正体とその哀しい理由を知ることになります。
彼は知人の娘の彼氏であり、娘さんは一ヶ月前、16歳という若さで急性白血病により亡くなったというのです。
少年は、最期まで彼女を見守ることしかできず、今もなお彼女の住んでいた団地を見つめ、立ち尽くしていたのでした。
この事実を知った瞬間、私は涙が止まりませんでした。
彼は恋人の死を受け止めきれず、何もできない自分自身を責めながら、ただひたすら雨の中に立ち続けていたのです。
16歳で大切な人を失った彼の苦しみを思い、胸が締め付けられる思いでした。
■【結】〜記憶に残る、ひとりの青年の強さ〜
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あの日のあの景色は、今も私の心に深く刻まれています。
雨に打たれながらも、黙って哀しみと向き合う彼の姿は、青春の哀愁と静かな強さを象徴していました。
彼が今どうしているのかは分かりません。
しかし、あの少年の背中は、私にとって「人が哀しみを乗り越えようとする強さ」の象徴として、鮮明に記憶に残り続けています。
彼は本当に、格好良かったのです。
切ない話:雨の中に佇む少年と16歳の哀しみ――春の団地で見た青春の影
雨の中に佇む少年と16歳の哀しみ――春の団地で見た青春の影
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