笑える話:誰もいないはずの昼下がり、TSUTAYAの静寂なトイレで体験した、知られざる違和感と緊張の一幕

誰もいないはずの昼下がり、TSUTAYAの静寂なトイレで体験した、知られざる違和感と緊張の一幕

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あの日は、雲が薄く広がる午後だった。
陽射しは窓ガラスの向こうでぼんやりと拡散し、どことなく色の褪せた街並みに、わずかな温もりを添えていた。
僕は、仕事帰りにふと立ち寄った近所のTSUTAYAの自動ドアをくぐった。
店内は平日の昼下がりらしく静まり返り、BGMが遠くで弱々しく流れ、誰もが自分の世界に沈み込んでいた。

トイレは店舗の奥、DVDコーナーの裏手にある。
薄暗い通路を抜けていくと、やや古びた白いタイルと、どこか冷たい蛍光灯の光が迎えてくれる。
扉を押し、空気が変わるのを感じながら中へ入る。
床にはかすかな水滴が点々と残り、消毒液とわずかにカビの混じった臭いが鼻をついた。

個室のドアを閉め、鍵をかけると、ほんのわずかに外界から隔絶された安堵が訪れる。
けれども、その静けさにはどこか不安定なものが混じっていた。
壁越しに響く微かな店内放送。
時折、外の道路をバイクが通り過ぎる音。
自分の呼吸と、服の擦れる音だけがやけに大きく響く。

そんなとき、不意に隣の個室のドアが軋んだ音とともに開き、誰かが入ってきた。
足音はゆっくりと、重たく、床のタイルを踏むたびにわずかに湿り気を帯びた音を立てる。
個室のドアが閉じ、静寂が戻る。

普通なら、こんな状況で話しかけられることなどあり得ない。
互いに干渉しない、無言のルール。
だが、その沈黙を破るように、隣からいきなり、少しかすれた男の声が響いた。

「おぅ、こんちは」

その声は、どこか場違いな明るさを帯びていた。
僕の身体は一瞬で強張り、心臓がドクンと跳ね上がる。
思考が追いつかず、頭の中に「は?」という疑問がこだまする。
壁一枚隔てた向こうにいる知らない誰か。
その存在が急に生々しく、圧倒的な現実感を持って自分に迫ってくる。

それでも、気まずさや恐怖を悟られたくなくて、僕は努めて平静を装い、乾いた喉で「こんちはっす」と返す。
声は自分でも驚くほど小さく、頼りなかった。
空気はさらに重く、狭い個室の中で、じっとりと汗ばむ手のひらを感じる。

間を置かず、また声がする。
「最近どう?」。
あまりに自然な口調に、返す言葉が見つからない。
誰なのか、なぜ話しかけてくるのか、混乱と警戒が渦巻き、脳裏に過去の些細な出来事――見知らぬ人との気まずい遭遇や、突然のトラブルの記憶――がちらつく。

それでも、沈黙はますます気まずさを増幅させるだけだと思い直し、僕は精一杯装った軽さで「まぁ普通だね。
忙しいのかい?」と応じた。
声を出した瞬間、無意識に息を呑み、唇が乾く。
自分の声が壁に反響し、奇妙なほど大きく感じられる。

すると、隣の男の声が今度は低く、どこか切羽詰まったようなトーンに変わった。
まるで、今までの軽さが嘘だったかのように。
「ちょっとかけ直すよ、隣に変なのがいる」。
その呟きは、ほとんど独り言のように小さく、しかし僕の耳にははっきりと届いた。

足音が離れていき、個室のドアがそっと開き、閉まる音がした。
僕はその場で固まったまま、残された沈黙の中に、微かな残響――緊張と不可解さが混じった空気だけが漂っていた。
TSUTAYAのトイレという、ごく当たり前の日常の奥に、確かに「異物」の影が差した瞬間だった。

しばらくしても胸の鼓動は収まらず、僕は自分の手のひらの汗と、喉の渇きを意識しながら、そっと個室を後にした。
外に出ると、やはりあの静寂な店内が広がっている。
だが、世界はたしかに少しだけ、違って見えた。
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