■【起】〜期待とサプライズ、誕生日の夜に〜
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1週間前、彼女の誕生日。
大切な日を祝うため、俺は彼女がずっと行きたがっていたフレンチレストランを予約した。
一人1万8000円のコース、奮発したディナーだ。
待ち合わせ場所で合流し、他愛もない雑談をしながら、俺たちは特別な夜へと歩みを進めた。
店の前で、彼女が気づく。
「ここは…覚えててくれたんだ」
涙ぐむ彼女をエスコートし、店内へ。
幸福なサプライズに包まれた空間、俺の胸も高鳴っていた。
■【承】〜涙の理由、すれ違う心〜
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テーブルにつき、サラダが運ばれても、彼女の涙は止まらない。
ウェイターに申し訳なさそうに目配せしつつ、俺は彼女に話しかけた。
「そんなに泣くなって、誕生日だし…ここ来たかったんだろ?」
ドラマのワンシーンのような状況。
店内の視線が二人に集まり、祝福の微笑みが降り注ぐ。
けれど、彼女は「違うの…違うの…」と涙をぬぐい続ける。
俺も困惑しつつ、「何だよ、涙を拭けって」と声を大きくしてしまった。
■【転】〜突然の終わり、静まり返るレストラン〜
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「別れたいの、ごめんね」
彼女が大声でそう告げた瞬間、店内の会話が止まり、俺も時が止まったように固まった。
動転し、「えっ、ちょっと落ち着こう、ワイン頼む?」と訳の分からないことを口走る俺。
「ごめんね!本当にごめん!」
叫ぶように彼女は店を飛び出した。
呆然とする俺、戸惑う店内。
ウェイターがスープを運びながら「帰るなら今ですよ」とでも言いたげな視線を送ってくる。
それでも俺は『何か?』という顔で、コース料理を食べ続けた。
そして、メインの肉を食べていると、ふいに彼女が戻ってきた。
怒るどころか、俺は「心配したよ、どうしたの?」と優しさを向ける。
彼女は無言で椅子に忘れた携帯を握りしめ、再び走り去った。
■【結】〜静かな痛みと、前を向く夜明け〜
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再び緊張に包まれる店内。
ウェイターが「デザートは…どうしますか?」と小声で尋ねる。
バースデーケーキを頼んでいたことを思い出し、俺は「無しの方向で」と呟き、席を立った。
合計2万円にしてくれた店の優しさが、かえって胸に刺さる。
フラれた痛みよりも、周囲の視線が何よりも辛かった。
そんな1週間が過ぎた今、俺は元気だ。
あの日の涙も、静かな痛みも、やがて思い出になるのだろう。
切ない話:涙のフレンチ、誕生日に訪れた別れのディナー
涙のフレンチ、誕生日に訪れた別れのディナー
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