笑える話:闇に沈む部屋、静寂の中で呪いの真書に手を伸ばす夜―魂を蝕む儀式の序章

闇に沈む部屋、静寂の中で呪いの真書に手を伸ばす夜―魂を蝕む儀式の序章

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部屋は夜の帳に包まれていた。
窓の外では、幾度も交差する街灯の光が雨に濡れたアスファルトを斑に照らしている。
静けさの中に、時折、遠くで犬が鳴く声や、どこかの家の扉が軋む音が微かに混じる。
そのすべてが異常なまでに遠く、ここだけが世界から切り離された小さな牢獄のようだった。
空気は重く、湿った埃の匂いが鼻を刺す。
普段は気にもとめない古びた本棚の影が、今夜に限って異様に長く、壁にゆらめいていた。

俺の指先は、机の上に横たわる一冊の本へと伸びる。
黒ずんだ革表紙は、蝋燭の淡い光を受けて不気味に鈍く反射し、古い金具がかすかに冷たさを伝える。
手のひらに伝わるその感触は、まるで生き物の体表のようで、微かな震えが背筋を這い上がった。
喉が渇き、舌先で唇を湿らせる。
深呼吸をひとつ。
心臓が皮膚のすぐ下で跳ねるのがわかる。

「呪いの真書」――その文字は褪せかけているが、かすれたインクの黒が、闇の中にじわりと浮かび上がるようだった。
ページをめくるたび、紙の擦れる音がやけに大きく感じられ、指先に微かなざらつきが残る。
書物からは、湿気に混じってどこか鉄錆のような匂いが立ち上る。

最初のページ、そこに記された警告文が、静かに俺の目に飛び込んできた。

―これに従えば呪いは成就するが、手順を間違えれば呪いは自分に返る。
それでもあなたは実行しますか?

一瞬、胸が強く脈打つ。
警告の言葉が、まるで耳元で囁かれているかのような錯覚に囚われた。
だが、俺の心に迷いはない。
この本を手にした理由はひとつ。
許せない奴が、この世に存在しているからだ。
その顔を思い出すたび、内臓がきしむような憎悪が、腹の底からせり上がってくる。
過去の記憶が、刃物のような鋭さで脳裏をよぎる。
あの夜、冷たい雨の中で交わされた裏切りの言葉、爪を立てて耐えた屈辱の感触、耳にこびりついた嘲笑の響き――すべてが、今も鮮やかに蘇る。

俺は躊躇なく、真書の奥へと手順を辿り始めた。

―まず目を閉じて、呪いたい相手の顔を思い浮かべる

目蓋を下ろすと、闇の中に奴の顔が鮮明に浮かび上がる。
額に浮かぶ皺、唇の歪み、薄暗い光に照らされた瞳の奥の嘲り。
あの日の雨の匂いと、湿った地面の冷たさが鼻腔を満たす。
喉の奥がひりつき、拳が自然と固く握られていた。
指先にじっとりと汗が滲む。
恐怖と怒り、そして復讐への渇望が渦巻き、全身の筋肉が硬直する感覚。
耳鳴りのような心臓の鼓動が、世界のすべての音を塗りつぶしていく。

次の手順が、闇の奥から語りかけてくる。

―どんな呪いをかけたいのかを具体的に思い描く

俺は、奴に与えたい苦痛の全てを、細部まで明確に思い描く。
背骨を這う冷たい痛み、喉を裂くような絶望、裏切りの重さが肉体を蝕む様を、想像の中で何度も反芻する。
その光景は、まるで現実のように鮮やかだ。
奴の表情が歪み、叫び声が部屋の静寂を突き破る。
だが、それは俺の心の奥底で、ようやく満たされるべき正義への渇きだった。

最後の手順―

―目を開ける

まぶたをゆっくりと持ち上げる。
瞳に飛び込むのは、なおも静まり返った夜の部屋。
だが、さっきまでとは何かが違う。
空気はより重く、肌にまとわりつくような粘度を帯びている。
蝋燭の炎が、わずかに揺らぎ、長い影が壁を這う。
沈黙の中に、何か目に見えないものが静かに動き始める気配。
胸の奥に、冷たいものがじわじわと広がっていく。
一連の手順が完了したという手応えと、取り返しのつかない道を踏み出したという実感が、同時に心臓を締め付けた。

そして、静寂の余韻の中で、俺はただ一人、呪いの成就を待ち続ける。
読了
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