笑える話:薄闇に浮かぶ呪いの頁――赦しえぬ夜にささやく声

薄闇に浮かぶ呪いの頁――赦しえぬ夜にささやく声

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夜は深く、窓の外では霧のような闇が静かに街路を包み込んでいた。
小さな部屋の中、黄ばんだ裸電球が天井からぶら下がり、その下で私は一冊の古びた書物を膝の上に載せていた。
ページの端には指の跡が幾重にも刻まれ、黴の匂いが鼻腔をくすぐる。
だが、それ以上に私を支配していたのは、胸の奥底に燻る激情だった。

 呪いの真書――その名は、まるで夜空に沈む新月のごとく、誰にも知られず潜んでいる。
表紙をなぞる指先が微かに震える。
ページをめくると、黒々とした文字が、私の心の奥底を見透かすように浮かび上がった。

「これに従えば呪いは成就するが、手順を間違えれば呪いは自分に返る。
それでもあなたは実行しますか?」

 私は小さく息を吐いた。
ためらいなど、とうに捨ててきた。
赦せない――ただその思いだけが、幾度となく夜を明かさせてきたのだ。
やり直しなどきかない。
私は静かに首を縦に振った。

 ページの指示は、冷ややかな手で私の意志を導いていく。

「まず目を閉じて、呪いたい相手の顔を思い浮かべる」

 私はそっと瞼を下ろした。
闇の奥から浮かび上がるのは、皮肉げに歪んだあの顔――声を荒げ、私を嘲り、すべてを踏みにじったあの人間の面影だった。
忘れられるはずがない。
あの日から、彼の顔は私の夢にさえ現れ、心を蝕み続けてきた。

「どんな呪いをかけたいのかを具体的に思い描く」

 私は唇を噛む。
憎しみは黒い液体のように胸の内を満たし、どろりとした願いへと姿を変える。
苦しめ、苦しめ――私が味わった痛みと同じだけ、いや、それ以上の苦痛を。
どこまでも堕ちていけばいい。
心は叫び、しかし声にはならない。

 やがて、最後の言葉が私を現実へと引き戻す。

「目を開ける」

 私は静かに、ゆっくりと、瞳を開いた。
薄闇の部屋が、先ほどよりもいっそう冷たく、重苦しく思えた。
手のひらには汗が滲み、鼓動は鼓の音のように耳元で響く。

 この夜の静寂が、すべての始まりを告げていた。
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