「あなたは1ヶ月間眠っていましたよ。
」
病院のベッドの上で目を覚ました私に、看護師さんがそう告げた。
枕元にはクラスメイトたちの寄せ書きが置かれている。
しかし、そこにひときわ目を引く文字があった。
「沈まぬ太陽」――Kの手によるものだ。
Kは私が眠っている間に自殺していたという。
後で知ったが、彼は例の本を「呪いの書」と呼び、燃やしていたらしい。
なぜ私はこんなことになったのか。
思い出せるのは、あの奇妙な世界のことだ。
その直前、私は図書館で「沈まぬ太陽」と題された不思議な本を手に取っていた。
ページをめくるごとに、太陽が人間を溶かし、やがて太陽自身が人間の姿になるという不可解な構図が現れる。
気味が悪いのに、ページをめくる手は止まらなかった。
その時、どこか遠くから叫び声が聞こえ、周囲の視線を強く感じた。
私は図書館を飛び出し、外へ出た。
外の景色は一変していた。
空気は濁り、見慣れた街並みは消え、赤い空と黒い海、奇妙な魚、そして釣り人のいる防波堤が現れた。
釣り人は私を見て驚いたが、すぐに釣りに戻る。
「喰われるぞ」という声。
振り向くと、カラスのような鳥が私の手を突ついた。
鳥に追われながら、釣り人の「急げ!」の声に従って走る。
ふと後ろを振り返ると、太陽が迫り、景色ごと蒸発していった。
全ての始まりは、十年前のあの日、小さな図書館の奥で「沈まぬ太陽」を見つけたことだった。
友達もなく、読書だけが楽しみだった私は、すぐに読み尽くした本棚の隅でその不可解な本と出会った。
押し花と奇妙な挿絵、そしてどのページにも描かれる太陽。
レモンとテーブルの絵。
私は好奇心に負けて、奇妙な世界に足を踏み入れてしまったのだ。
そして、現実に戻った私には三つの「後日談」が残された。
裏の世界で私を助けてくれた釣り人は、亡くなった叔父だったこと。
鳥に突かれた傷は現実の自分の手にも残っていたこと。
そして、Kが私の眠りの間に自ら命を絶ち、「沈まぬ太陽」と書き残していたことだ。
今は普通の生活を送り、読書も続けている。
ただし、作者不明の本には二度と手を伸ばさない。
あの呪いの書の正体も、裏世界の意味も、もう誰にも分からない。
だが、寄せ書きの「沈まぬ太陽」の文字を見るたび、あの世界のことを思い出さずにはいられないのだ。
不思議な話:「沈まぬ太陽」の呪い──裏世界から目覚めた病院の朝
「沈まぬ太陽」の呪い──裏世界から目覚めた病院の朝
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