■【起】〜孤独な日常と一冊の不思議な本〜
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もう十年も前のことになる。
私は当時、友達もいない女子中学生で、放課後や昼休みを小さな図書館で静かに過ごしていた。
そこは蔵書も多くなく、興味のある本はすぐに読み尽くしてしまう。
そんなある日のこと。
読みたい本がなくなり、何気なく本棚を眺めていると、奥の棚の下段に目を引く一冊を見つけた。
タイトルは「沈まぬ太陽」。
表紙には不思議な絵が描かれていた。
それは小冊子のように薄く、どこか手作りの雰囲気すら漂っていた。
私は好奇心に負けてその本を手に取り、ページをめくり始めた。
■【承】〜開かれる異界への扉〜
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内容は奇妙そのものだった。
押し花や、意味不明な文章、そしてページごとに異様な絵が続く。
どの絵にも太陽が描かれていて、なかでもテーブルにレモンが乗った絵が一際印象的だった。
不気味さを感じながらも、私は惹きつけられるように読み進めた。
すると、レモンの絵は表紙であり、その先は太陽が人間を溶かし、やがて太陽が人間の形になるという、異様な変化が描かれていた。
その瞬間、遠くから叫び声が聞こえ、周囲の視線が私に集まる。
私は居心地の悪さに耐えきれず、図書館を後にした。
外に出ると、空気が濁り、見慣れたはずの景色がまるで異世界のように変わっていた。
私は恐る恐る歩き出した。
■【転】〜裏の世界での邂逅と恐怖〜
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しばらく歩くと、防波堤で釣り人が釣りをしていた。
しかし、海は真っ黒で、空は赤に近いピンク色。
釣り人のバケツでは、異様な形の魚が暴れている。
私はその釣り人に一瞬だけ見つめられるが、すぐに彼は釣りに戻った。
不安な気持ちでその場を離れようとした矢先、「喰われるぞ」という声が聞こえ、驚いて振り向くと、カラスのような鳥が手を突ついてきた。
釣り人は魚を鳥に投げ与え、「急げ」とだけ言い放つ。
私は無我夢中でその方向に走った。
その途中、振り返ると、太陽が近づき、景色が蒸発していくようだった。
次の瞬間、私は意識を失っていた。
■【結】〜現実に残る爪痕と余韻〜
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目を覚ますと、病院のベッドの上だった。
看護師から、私は本を読みながら倒れ、1ヶ月もの間眠り続けていたと告げられた。
枕元には、クラスメイトたちからの寄せ書きが置かれていた。
後日、三つの後日談が私をさらに不思議な気持ちにさせた。
一つ目は、裏の世界で助けてくれた釣り人が、亡くなった叔父だったと写真で判明したこと。
私はそれ以来、彼の墓参りを欠かさなくなった。
二つ目は、鳥に突かれた痕が現実にも残っていたこと。
臨死体験かと思っていたが、現実に影響が及んでいたのだ。
三つ目は、私が眠っている間にクラスメイトのKが自殺したこと。
彼の寄せ書きには「沈まぬ太陽」と記されていた。
後で知ったが、Kはあの本を「呪いの書」と呼び、燃やした末に精神を病んで亡くなったという。
私はその後、普通に大学を卒業し、今は社会人として暮らしている。
今でも本は好きだが、作者不明の本だけは絶対に手に取らない。
不思議な話:沈まぬ太陽と裏の世界──図書館から始まる不可思議な邂逅
沈まぬ太陽と裏の世界──図書館から始まる不可思議な邂逅
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