怖い話:「雨の日の女」――なぜあのアパートは友人を手放したのか

「雨の日の女」――なぜあのアパートは友人を手放したのか

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結局、彼は半年でそのアパートを引っ越した。
女の正体は分からずじまいだった。
今も雨の日、薄暗い通路の電灯の下に、あの黒い服の女がじっと立っているかもしれない。

なぜ、友人はそこまで恐れて引っ越す決断をしたのか。
すべての始まりは、あの奇妙な雨の夜に遡る。

それは、大学時代。
友人の新居祝いにと、数人でアパートを訪れた日のことだった。
小雨の降る中、スーパーで買った酒やつまみを手に、私たちは三階建てアパートの階段を上っていた。
入口で荷物を下ろし傘を畳んだ瞬間、友人の一人が「わぁっ」と声を上げた。

「どうした?」
「いや、ちょっと驚いた」

彼が指さす奥の通路には、黒い服の女が立ち尽くしていた。
30代か40代くらい、長い髪に白い顔。
じっと遠くを見つめている。
私たちは軽く会釈して通り過ぎ、二階の友人宅に入ったが、部屋ではすぐにその女のことで話が持ちきりになった。

「下に不気味な人がいた」
「怖いね、あそこで何してるんだろう」
「アパートの住人じゃないの?」

そんな噂も酒とゲームですぐに忘れたが、夜も更け、酒が尽きて買い出しに出た友人たちは、ものの5分で戻ってきた。

「やっぱり、皆で行こう。
まだあの女がいて怖い」

まさかと思いつつ、肝試し気分で一緒に階段を降りた。
奥の通路には、やはり黒い服の女が、何時間も同じ場所で立ち続けていた。
酒の勢いで「挨拶してみよう」と提案したが、コンビニから帰ると、女の姿は消えていた。
不思議に思いながらも、その夜は何も起こらなかった。

それから数日後のこと。
友人が「引っ越しを考えている」と切り出した。

「もう引っ越すの?早くない?」
「あの女の人がいるんだ」

実は、雨の日には必ず彼女が通路に立ち続けているらしい。
雨が上がると消えるが、あの異様な存在感がどうしても耐えられないという。
友人は一度話しかけてみたが、女は返事をせず、ただ天井を見上げていたという。
管理会社も取り合ってくれず、結局、友人は半年でその部屋を後にした。

「幽霊じゃないよ。
ちゃんと人間だと思う。
でも怖くない?雨の日にあそこでずっと立ってるんだよ。
何なんだろう…」

誰も彼女の正体を知らない。
私たちが冗談半分で訪ねたあの夜から、友人の心には雨の日の恐怖が巣くったままだったのだ。

もしかしたら今夜も、あの雨の通路に、女は静かに立ち尽くしているのかもしれない。
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