「夢遊病」に潜む家族の記憶――13回忌が問いかける“隠れんぼ”の謎

■「夢の中の誘い」が残したもの――兄弟が語る不可解な体験

12月某日、関東地方のとある住宅地で暮らすAさん（仮名、20代）は、来月に控えた弟の十三回忌を前に、静かに当時を振り返っていた。
Aさんは中学2年、4歳下の弟は小学4年、そして最年長の兄は高校1年で寮生活を送っていた。
ある夏の早朝、Aさんがいつものように陸上部のランニングに出かけようとした際、弟が自室のベッドから消えていることに気づいた。

外に出ると、弟は庭先で眠っていた。
Aさんは「最初はトイレかと思ったが、まさか外で寝ているとは思わなかった」と当時を語る。
その後も弟がたびたび家から姿を消し、机の下やタンスの陰など、家の中の思いもよらぬ場所で発見されることが続いたという。

■「兄弟には夢遊病の癖があった」――母親の証言

こうした不可解な行動の背景には、家族も知らなかった“夢遊病”があった。
正月、家族が思い出話をしていた際、母親が「お前たち兄弟には夢遊病の癖があったんだよ」と明かした。
Aさんによると、本人も兄も自分たちが夢遊病だった記憶はなかったという。

Aさんは兄に「何度も同じ夢を見たことがないか」と問いかけた。
「かくれんぼをする夢」、そして「一緒に川原に行こうと誘われる夢」だった。
兄は「川原に行こうと誘われたが、断った」と答えた。
その時、夢の中で「じゃいいや。
弟と行くから」と言われたことも一致していた。
Aさんは「その夢を見なくなったのはちょうどその頃」と証言する。

■十三回忌を迎える弟の突然死――「夢」は現実と交差するか

事件は12月の朝に起きた。
Aさんがランニングから戻ると、家に救急車が到着していた。
弟は布団の中で冷たくなっていた。
死因は心不全とみられる。
Aさんは「弟が同じ夢を見たかは分からない。
川原に行ったのか、末っ子だったからか、それとも偶然か」と複雑な心境を語る。
家族には“夢”の話はしていないといい、兄とAさんだけの「秘密」だと明かした。

■「夢遊病と記憶」――専門家が指摘するリスク

日本睡眠学会の医師・川村一郎氏によれば、「夢遊病（睡眠時遊行症）は子どもに多く、本人に記憶が残らない場合が多い。
危険な場所に移動してしまう例も報告されている」という。
また、夢と現実の区別がつかない行動をとることもあり、「適切なケアと観察が必要」と強調する。

■心の傷と向き合う家族――今後の課題

Aさんは「弟の死をきっかけに、家族で互いの心の状態や睡眠について話し合うようになった」と語る。
夢と現実、そして家族の記憶が交錯するこの出来事は、今もAさんと兄の心に深く刻まれている。

睡眠障害や夢遊病は、見過ごされがちだが重大なリスクを伴う場合がある。
家族や身近な人が異変を感じた際は、早めに専門家へ相談することが望ましい。
亡き弟の十三回忌を前に、Aさんの「夢」は、今も静かに問いかけている。